声をあげたから変わる未来がある。

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声をあげたから変わる未来がある。

 僕の名前を熊谷(くまがい)と言う。僕がろうというアイデンティティを獲得したのは大学生の時だ。高校生までは、アイデンティティがハッキリしていなくて、逆に聴覚障がい者を見下していた面もあった。その体験は後々、内省する材料にもなった。

 専門学校の時に手話という言語に出会った。その時は、周りが聴者ばかりで手話を使う機会もなく興味がなかった。専門学校では情報保障のない状態で、社会福祉士の資格を習得するために学んだが、もっと学びたいために、大学へ編入した。その時に再び手話に巡りあった。ろう者、難聴者が活用する生きた言語であった。ろうがする手話、難聴者がする日本語対応手話の違いを知り、またいろんな人たちの間で手話で会話を重ねていくと、自分の考え、思い、気持ちを手話に変えて話せる心地よさを知った。体験を蓄積し比較対象ができることで、主観や客観で見つめることができた。それでやはり、「手話で生きるろう者でいたい」と思うようになった。

 大学卒業後、いろいろな職場を経験した。現在はMSW(医療ソーシャルワーカー)を目指している最中だ。MSWというのは、医療機関で働いているソーシャルワーカーのことである。日本では、ろう者のMSWはあまりいない。現在、在宅診療所で勤務しながら勉強をしている。職場の仲間はみんなコミュニケーションを積極的にとろうとしてくれて、話しやすい。ニックネームは熊さんと呼ばれている。現在は広報を中心に、事務がメインだ。広報では、在宅診療所の認知を上げる一助になればと思い、いわゆるろう通訳として手話で発信している。

 在宅医療はまだ歴史が浅く、医者にも具体的なイメージが伝わってない現状である。在宅診療所は、直接病院に行けない人のために、医者や看護師などが直接自宅へ赴いて診療する方法である。患者は身体を自由に動かせない方が多い。中にはいわゆる死期が近い人もいる。病院か自分の家かで、「最期」をどう迎えるかを相談しながら、本人や家族の気持ちを尊重することが大事である。もしもこの在宅医療がより広く知り渡るようになったら、自分が高齢者になった時に、どういうやり方で人生を終わらせたいか、選択肢が増えると思う。ろうの当事者として、耳の聴こえない人が「最期」を迎える時に、その人が安心・納得できる方法で見守りたい

 職場でコミュニケーションを取り、相互理解を深めながらお互いを知るということにやりがいを感じる。例えば10人知り合ったとして、10人とも仲良くなれるわけではない。相性もある、価値観の相違もある。その中でどうやってお互いを知り合っていくか、相手の考えをちゃんと知った上で自分の気持ちもしっかりと相手に合わせて、教えたり伝えていったりするかなどを模索する。この共同作業が楽しい。相手の反応や自分の反応を掛け合わせて化学反応が起きる。人間を知るというのはこういうことではないかと思う。

 これまでの経験を通して、聴者に対して送りたいメッセージは、怖がらないでろう者、難聴者などの聴覚障がい者にぶつかっていってほしい。良い意味で喧嘩しようと提案したい。ぶつかり合わなければお互いのことがわからないということはいくらでもある。勇気を出して接触することで、初めてわかることが生まれ、世界が広がる。

 聴覚障がい者に送りたいメッセージは、当事者意識を少しずつで良いから持って、声をあげてほしい。迷っても良い。声をあげたから変わる未来もある。そういう未来の可能性を信じて、僕は今日も楽しく、手話で生きている。人と関わりながら、主観だけでなく、観察力を持って客観視しながら人を見ることが肝心だ。もちろん毎日それをするとくたびれる。休日の時は、自分が関心のある本を読んだり、友達と真面目な話をしたり、他愛のない雑談でリフレッシュしている。もうひとつは、お風呂に入浴剤を入れてぼーっとして入ること。そうして気分転換して「さぁまた明日から仕事を頑張ろう」と思える。

参考にしてほしい。

熊谷有央(くまがい ともひろ)

小学生~大学まで聴者の間で育ってきたろう者。社会福祉を学ぶために入った大学で手話とろう者に出会い、ろうのアイデンティティに目覚める。
現在は様々な挑戦を続けて、某在宅診療所で勤務中。
手話や在宅診療の知識向上のために、日々研鑽中。

中川 夜
中川 夜

1991年生まれ。ろう者ライター&作家。聴覚と精神の重複障害者。
自著『会社でいじめられて人生おわりそうだったぼくが「あること」をしたらすべてが変わった』
『自分を人の10倍知り尽くす習慣』等をAmazonで発売中。
お仕事依頼は nakagawayoru★gmail.comまで。(★を@に変えてください。)

日本手話/日本語字幕付

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